
以前、前足(橈尺骨)を骨折したトイプードルのワンちゃんが来院されました。
1年半くらい前にベッドから飛び降りて片側の前足を骨折してしまい、
お近くの動物病院で骨折の整復手術を受けられたとのこと。
その後は普通に歩けるようになったそうです。
そこまでは良かったのですが、
術後1年以上くらい経過してから手術を受けた動物病院さんでみてもらった時に
「骨折した部位の骨が溶けてきている」
と指摘されプレートを外されたそうです。
すると、
プレートを外したところの骨が脆くなっていたため(プレート下の骨には力が加わらず骨が脆くなり易い)、
なんとその部位で再び折れてしまったのでした。
その後、3か月経った今も全く足を着くようにならないとのこと。
先生とのご相談では「骨が細くなっているため再手術は不可能」という結論になったそうで
包帯やギプスのようなものを装着したりしたものの改善しなかったそうです。
通常、3か月間経っても足を全く使わない、というのはほぼ間違いなく異常が起こっています。
一般的に、
トイプードル、チワワ、ポメラニアンなどの超小型犬種では
特に今回のようなケースが発生しやすく前肢骨折では癒合不全が生じ易いといわれており、
プレート固定を用いた場合でも12.5%に合併症が発生するとの報告もあります(通常の骨折の2〜3倍の発生率)。
体重も2kgくらいで、骨幅も2〜5mm程度しかない場合が多いため手術が繊細で難易度が高く、
執刀獣医師がこの骨折整復手術に慣れていないと、ただでさえ少ない軟部組織や血流を傷めつけて、
癒合不全が発生しやすいので注意が必要です。
また、症例の状態や活動性なども考えて、整形外科の基本原則を守り、使用するプレートの種類や、
固定の方法(髄内ピン、ギプス固定、プレート固定、創外固定など)の選択をしなければ簡単に癒合不全に陥ってしまいます。
そのため実際に合併症が出るケースも多く(12.5%の確率)、
癒合不全に陥ってしまったりすると、ワンちゃん、飼主さまはもちろん、
執刀した獣医師も胃が痛い日々を過ごすことになる獣医師泣かせなやっかいな骨折です。
↑橈尺骨が骨折しており完全に癒合不全に陥っています
このまま固定不良の状態では経過を見ていっても悪化はしても改善することは無さそうです。
飼主さんのご希望により当院にて再手術を実施することになりました。
↑ダブルプレート法で固定しました
前回の手術から1年間以上、再骨折してから3か月以上も経過しているため、骨折部を新鮮創にして固定後、海綿骨移植とPRP(Platelet Rich Plasmaの略:多血小板血漿)、FGF(線維芽細胞増殖因子:Fibroblast Growth Factors
術後、1週目ぐらいから患肢を使いだし、術後3か月ほどで骨も無事に癒合して問題ない歩様に回復してくれました。
今回、プレートは飼主さまの希望もあり、外さすに経過をみていくことになりました。
当院は外科全般(整形外科)に力を入れており他院の先生からご紹介頂くことがあります。
ご紹介頂いた癒合不全症例の再手術を含めて、手術させて頂いた骨折のワンちゃんは全頭完治しており治らなかったケース(癒合不全になった症例)は今のところ幸運なことに1例も有りません。
が、術後(骨が癒合するまでの2〜3か月の間)に高いところから飛び降りたりするとプレートごと崩壊する可能性もあるため気をつけないといけません。
飼主のみなさまは落下事故にお気を付けください。
All is going well, but complications can/will occur at any time.
Continue to learn and not become complacent.
Continue improvements in implants & techniques.
Randy J. Boudrieau DVM, Diplomate ACVS, ECVS Professor of Surgery Cummings School of Veterinary Medicine Tufts University
垂水オアシス動物病院
院長 井尻
(神戸市垂水区霞ヶ丘にある動物病院です)